旅の歌 2
迢空とは歌柄も違い、考え方も違うけれど、斎藤茂吉には卓抜した伝統詩人としておのずから日本人の長い旅の心に通う詩情がそなわっていました。
ふりさけて峠を見ればうつせみは低きに拠りて山を越えにき
感情で一気に押し切って歌っているのですが、しかし、こういう歌にとらえられている茂吉の旅の把握のたしかさ、人間の生きるいとなみを思うことのこまやかさは、図抜けたものがあります。
茂吉における写実とはこういう次元のものをいうのだと、つくづく感じさせられます。
こんな茂吉ですから、2年間のドイツの生活においても、さほど歌心を細らせずに歌を詠むことができました。
チロールの山の奥なる限りなきアルプの山に陽はかたよりぬ
はるかなる国とおもふに狭間には木精おこしてゐる童子あり
緑なる平野より来て Donauに支流のあふは寂しかりけり