旅の歌 4
「射水」は現在の富山県射水郡、高岡市、氷見市もそこに含まれていました。
駅館があったのは、現在の新湊付近でしょう。
やや立ち入って一首を解すれば、旅人は、日常生活の中では決して味わうことのない、海辺の夜明けの目覚めを、今、味わっているのです。
都人が海を見ることなどほとんどない、そんな時代のことです。
波の音でねむれずに夜を明かしてしまったのかもしれない。
と、まだ、暗い海の方から、櫓を漕ぐ音が聞こえてくる。
聞きなれぬ音だけに、やけに「つばらに」(はっきりと)聞こえてくる。
・・・ここ第三句までは、以上の意で、短歌の構造としては序詞の役を果しているわけです。
「つばらつばらに吾家し思ほゆ」を起しているのです。
なかなか巧みな歌で、山上憶良の作または憶良の息子の作とする伝えがあったことがわかります。
当時、しかるべき歌人の作と推定されただけの歌格の高さのある歌です。
この歌が、「駅館の屋の柱に題し著け」られていた、とする題詞(詞書)に私たちは注目しましょう。
当時の旅、当時の旅人、当時の旅と歌について考える糸口を与えてくれるだろうからです。